妊娠中の問題があった場合と出生前診断での指摘があった場合

 

 妊娠中におなかの赤ちゃんに問題があるとわかる場合は二通りあります。一つは通常の妊婦検診のときに胎児の状態の変化がきっかけで偶然発見される場合、一つは特定の疾患を胎児が有するかどうかを診断するために、計画的に行った検査の結果としてわかる場合です。

 前者の場合には、在胎期間に比べて赤ちゃんの成長が遅い、赤ちゃんの運動が少ない、羊水が多いことなどがきっかけになります。その結果として先天性心疾患や消化管の奇形などが出生前にわかる場合もありますが、多くは確定診断を下すことが難しいために出生までの間妊婦が不安な日々過ごさなければならないこともあります。様々なケースを想定した上で、母子ともに適切なケアを受けられる施設で分娩することが望まれます。

 後者の場合は、生まれてくる赤ちゃんの兄弟や親に遺伝性の疾患の方がいるために計画的に出生前検査を受けるケースです。出生前検査には、超音波検査、羊水検査、絨毛検査など妊娠の初期から中期に行うものが一般的ですが、最近は妊娠前の受精卵を用いての着床前診断もあります。しかしいずれの場合も人為的な生命の選択を前提に行うものです。結果が出てからその対応に迷ったり心理的な葛藤に苦しんだりすることのないように、検査を受ける前にその疾患についての医学的かつ社会的な理解が必要です。その一助として検査を受ける前の遺伝カウンセリングが重要です。その上でチーム医療のできる専門施設で、倫理的かつ社会的な合意の範囲で行われます。

 

 ほとんどの妊婦は、妊娠中に胎児の異常を発見されるかどうかにかかわらず、「おなかの中の子に障害があるのでは」という不安な気持ちを一度は持つのではないでしょうか。これはとても大切な経験なのです。それまで身近に障害児がいなかった人が、初めて障害児を自身に関わることとしてとらえる貴重な機会になります。現実に出生する新生児になんらかの先天性の疾患がある場合は少なくなく、口唇口蓋裂の子が約500出生に1人,症状を有する染色体疾患は約300人に1人など、軽度のものまで含めれば50人に1人は何らかの生まれつきの疾患を持っているといえます。こどもを持つと言うことはすべての場合を受け入れるということでもあり、これを再認識する機会であると肯定的にとらえたいものです。

 このような漠然とした不安を持つ人への対応は難しいものです。不安を煽るのでもなく可能性を否定するのでもなく、その気持ちを大切にして、視点が広がったことを認める気持ちで接したいと思います。夫婦で話し合っていただくことも大切です。配偶者の一言で妊婦の不安が解消することもあります。生まれてくる赤ちゃんには何ら遺伝性疾患があってはならないというような言葉を不用意に投げかけないように注意したいものです。

 出生前診断を受けることによって漠然とした不安を減らせるような誤解がありますが、何百とある先天性疾患をすべて同時に調べ上げるものではありません。自身や親族の特定の疾患の遺伝についての疑問や不安に対しては、遺伝カウンセリングを受けることを勧めます。遺伝についての正確な情報で不安が解消することがあります。もし十分な知識がないままおなかの。赤ちゃんに疾患があることわかったけれどその疾患のことを十分に知らないという場合も、遺伝カウンセラーが将来のことを含めた話ができるはずです。つわりなどの妊娠中の身体変化と相まって、日常生活に影響を及ぼすほどの不安があるときには、精神科や心療内科の受診をすすめることもあります。

 

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水野誠司 

愛知県心身障害者コロニー中央病院 小児内科

480-0392 春日井市神屋町713-8